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石川智晶




2nd Album 僕はまだ何も知らない 2007年 ★★★★★
3rd Album 誰も教えてくれなかったこと 2009年 ★★★★
4th Album この世界を誰にも語らせないように 2012年 ★★★★★








僕はまだ何も知らない 2nd Album

01.Vermillion
02.ロストイノセント
03.アンインストール
04.ミスリード
05.美しければそれでいい〜Full Size Remix
06.涙
07.僕の空に季節はずれの雪が降る
08.house
09.Little Bird
10.水槽の中のテトラ
11.アイルキスユー


 4曲(#1・2・3・9)がアニメ版『ぼくらの』主題歌のためか、その影響がアルバムにも波及している印象。冷たく澄み切った不安と焦燥・達観と覚悟が空気を満たしている。
 相方の梶浦由記に比べて大分ポップス指向(あまり日本的じゃないけど)ですが、歌唱力や作編曲など極めてハイレベル。飛び道具的なことをあまりしてない代わりに、基本的なことをハイレベルで行っているというか。くっだらねぇラブソングが存在しないのも個人的には好感(爆)
 どの曲を切り取っても素晴らしいです。『ぼくらの』読者でもそうでなくても是非一聴して頂きたい名盤(2010.1.28)







誰も教えてくれなかったこと 2nd Album

01.Prototype 〜 Album version
02.砂の上のドルフィン
03.squall
04.クラウディ
05.落涙
06.Shylpeed 〜シルフィード〜
07.49scale
08.First Pain
09.Blue Velvet
10.誰も教えてくれなかったこと
11.太陽
12.1/2


 前作は『ぼくらの』とのリンクが色濃かったが、今作は『獣の奏者エリン』+『ガンダム00』とリンクしたかのようなアルバムカラー。もしかしてこの人のアルバムってその時のタイアップに依存しやすいのか?
 かつての相方、梶浦由紀も大好きなコーラスワークはやっぱりこの人も大好きなようで、今作でも高い歌唱力と相まってそれが存分に発揮されている。またそれが民族的・野生的な楽曲群と上手くマッチしてるんだな。
 第一印象こそ前作に比べてパッとしませんが、何回も聴いてくると味の出てくる、スルメの典型例。他人から教わろうとするな! 自分で聴いて学べ!(意味不明)
 今後Suaraに楽曲提供してくれたりしたら面白そうなんだけどな(2010.1.1)

※2012年12月1日追記
『獣の奏者エリン』ではなく、『エレメントハンター』の間違いでした。失礼しました。
 ご指摘下さったproserさんに感謝。







この世界を誰にも語らせないように 4th Album

01.TW ★★★★★
 タイトルの意味は「This World」「たすけて わたしを」らしい。
 無機質なビートを軸に、静かに襲い来るような切迫感のある曲調の中で、時にジャジー、間奏ではピアノロック風といったように表情を変え鳴らされるピアノが、実に効果的に効いている。
 そして変わらない歌詞のレベルの高さに驚かされました。込み上げてくる衝動的な本能や焦燥を『雑草』『土』『這いつくばって』『埋められている』『種』『足場』と、足下に広がる世界で表現している。ロードランナー?とか茶々を入れている場合ではない。
 風景描写がどこか漠然としてるのも、言葉にならない感情を表現しているかのよう。終盤で三連譜を多用する歌メロと相まって、劇的な展開を生み出してます。
 そしてそんな振る舞いを『健全じゃないか』と。それでしめるなんてとんでもない!ちなみに『健全じゃなイカ?』と書くと途端に脱力する出来となる。それでしめるなんてとんでもない!

02.The Giving Tree ★★★★
 今度は仏教的な『ただ在る』思想を持ち出した内容に。やばい今作半端ねぇかも。
 アンジェリカがどうとかいうコーラスから始まり、トラッドな笛の音が導入される曲。しかし歌が入っている間はアコギとストリングスが主導権を握っている。
 歌詞中にも出てくる言葉ですが、重ねられた断層のように微細なずらし方をした音が特徴。元々コーラスワークを武器にしてる人でもありますが。
 それはいいんですが、サビ直前とかで入るストリングスのキメが浮いてるというか、一気に歌謡曲に引き戻される感があって個人的にはどうも好かない。

03.My book ★★
 曖昧な描写・淡々と進行する展開がもどかしい、演歌チックなダウナーバラード。
 ベースラインでもっと遊んでも良かったかな。ちょっと一本調子。

04.不完全燃焼 ★★★★
 不完全燃焼はむしろ前曲。という突っ込みはさておき、ラテン調の曲。
 この曲もどこかスッキリしないけど。スパニッシュギターに変な所で休符が入ったり。
 パッと聴いた感じ、TWとリンクしてそうですが、個人的にはThe Giving Treeと繋がってるように聴けました。仏教で言うところの悟りに至るまでの、自我との戦いというか。「運命よりも優位に立ちたいのに」「このセッションは最初から僕に主導権なんてなくて」「動かされる者 その逆にそびえ立つ者の存在がある」といったキーワードが、それを連想させる。
 で、そういう概念を表立って現代社会に持ち込むと、色々問題が起こるじゃないですか、そういう齟齬を、2コーラスのAメロ〜サビで描写してるのかなと。

05.アンインストール 〜僕が最後のパイロットRemix〜 ★★★★★
 テクノ風リミックス。と思いきや中盤はアコースティック、と見せかけまたテクノ風。どうなってんだ。恐れを知らない戦士というか、恐れを取り払ったサイボーグみたいな感じ。
 更には歌メロまでいじったり、かなり大胆なリミックス。最後だろうが10番目だろうが惑わされず、単純に楽しんで聴いていいんじゃないでしょうか。原曲を千回以上聴いた(iTunesで見た)自分の耳にも新鮮でしたから。

06.スイッチが入ったら ★★
 メカニカルな世界観のミディアムナンバー。それを下敷きに、言ってることはTWと同じようなこと。やはり対比が面白いですな。
 ずっと打ち込みでハイハットをカチカチ鳴らしてるのが面白い。スイッチのON/OFFを表現してるんでしょうか。作った側もこれを聴かせる意図なのか、他の音は抑え目な印象。
 しかしメロが滑らかすぎてあまり印象に残らない。激しさを持たせるか、それこそテクノ寄りのアレンジでも良かったと思います。

07.逆光 ★★★★
 二胡と、あの独特のコーラスワークを組み合わせるのは強力な個性。そこに四つ打ちを敷くことで上手くジャンルレスな多国籍感を出しているのでは。
 歌メロがビートに沿うような配置なので、妙に骨太に聴こえるのもポイント。
 歌詞のテーマは『恐れ』の克服ですかね。これまた自分には悟りチックに聴こえました。

08.インソムニア ★★★★★
 テクノポップ風の軽快な雰囲気に反して繰り広げられる閉塞的な心情が、正に他人事。
 そして間奏の、パッと聴き可愛らしくもあるコーラスだとか、後半のアル・ヘイグみたいに不協和音を混ぜてくるピアノとか、所々で恐怖を煽ってくるセンス。一見アッパーな解釈をしてるようで、実はやっぱりダウナーでしたという。凡庸な感性とは一線を画してますね。
 歌詞はアルバム中でも分かりやすい部類では。タイトルで明言してるし、詞の内容も不眠症だし。

09.夏の庭 ★★★★
 単語のリフレインが非常に印象的な歌謡バラード。棒読み歌唱だとK-POPの出来損ないみたいになる手法ですが、繊細な調整で一回一回のタッチを丁寧に聴かせる技術は流石。
 イントロの、蝉の声のような左右に割り振られたコーラスも面白い。完全に歌で勝負してきて、それが期待通り功を奏している曲。

10.それは紛れもなく〜選ばれし者のソリチュード〜 ★★★★
 アイリッシュと和風を折衷したようなミディアム曲。ゲームの主題歌っぽいですが、舞台のテーマ曲だそうです。
 気高さだとか孤高だとか、そういうワードと異様にマッチしている。しかしこの曲もサビ直前のキメがなんだかなぁ……流れるように突入した方が合ってたと思います。あとラスサビで半音上がる展開も歌謡曲的すぎるというか。
 アイリッシュ+和+歌謡曲、という捉え方をすればまた違うのかも知れません。

11.涙腺 ★★★★
 笛の音入りな、和風のしっとりとしたバラード。ギターを琴のように鳴らしてるのが面白い。
 歌唱力頼みの「うん、いい曲なんだけど……」と片付けてしまいそうな曲ですが、後半での珍しく感情を前に出した歌唱が素晴らしいですね。裏のベースもやたらうねってるし。

12.もう何も怖くない、怖くはない ★★★★
『恐れ』の克服と『今在る』生を歌ったバラード。
 これまでの曲とけっこう印象が被ったりもするんですが、歌い方のニュアンスは細かく変えてきてる印象。この曲は優しく言い聞かせるような歌い方。

13.シャーベットスノウ ★★★★
 歌とコーラスのみで構成された曲。『アイルキスユー』みたいな感じ。
 何だろう、もう黙って聴けと。エフェクトのかけ方も過剰でなく上品なので、ほぼ実力勝負。
 しかしこれは後になってアレンジver.とか出しやすそうな曲ですね(爆)


●総評
 あえてタイアップ関連はほぼ無視しました。何故ならろくに知らなかったから。
 そう考えさせて頂くと『この世界を誰にも語らせないように』というのは『自分の世界は自分で決めるべし』ってことでしょうか。潜在意識とか仏教的な見方をすると、自分が知覚できるものが世界の総てなんだからと。ACIDMAN辺りの詞が好きな人は意外と気に入るかも。ある意味普遍的ではあるけど、一般的な共感とか、生活臭とはかなり遠い位置。
 曲の方は、基本的には歌と千変万化ともいえるコーラスをメインウェポンとしながらも、前作よりも細かく作り込んできたなという印象。クロスオーバーというか、多国籍な感覚がある。
 しかし基本的には聴きやすいのでは。歌メロが基本的に分かりやすめ、というか完結のさせ方が案外ベタなので、その辺がキャッチーに聴こえる要因か。間奏後に新しいメロディパターンを出したり、曲の最後でジャーンと鳴らす手法も多い。
 結論としては、傑作です。満足度が低めになっている曲も、アルバムの一部としては必要不可欠と言える。詞を噛み締めて深く自己探索していくもよし、純粋にハイレベルな音楽として楽しむもよし。これは凄くお勧めです(2012.6.15)







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