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中島みゆき


7th Album 生きていてもいいですか 1980年 ★★★★★
34th Album ララバイSINGER 2006年 ★★★★★








生きていてもいいですか 7th Album

01.うらみ・ます ★★★★
 のっけから7分オーバーの恨み節。これだけの時間を費やさないと怨念を出し切れないってことですか。アコースティックも哭いてるぜ。
 途中から笛の音も入ってきて、気分は完全に和ホラー。ほら、雨の中真っ白な服着て長い黒髪をすだれにして、ブツブツ恨み言呟く女がそこに立ってますよ。
 本当に泣いてるように歌いながらも、ピッチを崩さないのは流石の歌唱力。

02.泣きたい夜に ★★★★★
 アコースティック主体のオケに乗せて、女帝が優しく人の温もりを分け与えて下さる曲。トレモロギターがちょっとアイリッシュっぽい。
 女帝は暗いばかりの人ではないんですよ。闇ばかりじゃないんですよ。
 闇があるから光が生まれて、温かみに触れられるんですよ。逆ゾーマ。ちなみにラオウだったら「泣きたくば泣くがよい」。

03.キツネ狩りの歌 ★★★★★
 寓話的な詞と共に、女帝の格調高い御歌を拝聴することができます。
 盛り上げてサビに突入!と思わせる部分が実はサビでした、という構成が面白い。
「キツネ」と「気を付けて」で若干韻を踏んでる辺りにも、細やかなこだわりが感じられます。

04.蕎麦屋 ★★★★
 ポツリポツリと呟くような歌とアコギが静かに響くフォーク。
 歌詞が上手い。実に上手い。これ、いきなり最初から蕎麦屋の場面から始まったらハァ?ってなるじゃないですか。
 あらかじめ最初に「世界中がだれもかも偉い奴に思えてきて まるで自分ひとりだけがいらないような気がする時」って入れてるんですよね。この一文を入れることで、リスナー側もテーマが想起しやすくなる。食後に差し出されるお茶のような心遣い。

05.船を出すのなら九月 ★★★
 荒涼としたバックサウンドを背負い、女帝が朗々と歌い上げる。
 もっと尺が長くても良かったと思います。どうにも不完全燃焼感が残る曲。あと、三拍子じゃなくて九拍子にしちゃうとか。
 栗原勇蔵に執着するフィフィのように、九月に並々ならぬ執着を見せているので、九月が好きな人にはいいかも。
 全く関係ないんですけど『本を売るのならブッコフ』ってタイトルで替え歌提供したらいいんじゃないでしょうか。

06.
 無題のインスト曲。
 繋ぎであり、次曲のイントロのようなものです。

07.エレーン ★★★★★
 物凄く昭和歌謡のかほりがする曲。ってかこれもフォークですけど。
『生きていてもいいですか』というタイトルがここで出てくる、ハイライト曲ですね。
 声の揺らし方がこの時点でもう完璧なまでに絶品。引っかけるような声色が感情をこらえているかのようですし、振幅の細かいビブラートが本当に泣いているように聴こえる。

08.異国 ★★★★★
「俺達素粒子レベルで繋がってて全は一なんだぜ!」的なことを言うアーティストはたまにいますが、百億粒の灰になっても疎外感を感じようとする人はあまりいないんじゃないでしょうか。
 いやー凄い。情念っつーか怨念。女帝が絞り出す負のエネルギーは常人が浴びたら灰になってしまうでござるよネンネン。


●総評
 相互リンクして頂いているproserさんからのリクエスト。
 フォーク曲がメインなので、基本的には詞・歌・メロディを楽しむアルバム。この三要素については高いレベルで満たされております。
 にしても暗いですね。単純な暗さだけで言えば、ムック『朽木の塔』Radiehead『Kid A』とかの方が上だとは思いますが、これらとはまた違った闇を抱えています。暗いというか『深い』と言った方がいいのかな?
 孤独・怨念・厭世観……でも完璧に塗り潰されている訳でもなく、一抹の優しさや温もりも残されている。女帝流パンドラの匣とも言えるかもしれません。
 正直、自分ではあまり掘り下げられなくて、申し訳ない気持ちがあるんですよね。暗いのに変に耐性ができちゃってるというか「あまりこういう作風を聴き慣れてない人が聴いたらどうなるか」という視点で触れられないので。
 オリコン1位を取った作品だそうですが、「昔も邦楽も捨てたもんじゃなかったんだな」とは思えません。歌唱力が受けたのならともかく、嫌だよこんな楽曲が大衆に支持されてる世の中なんて!(2013.7.5)






ララバイSINGER 34th Album

01.桜らららら ★★★★★
 アコギストロークメインの曲。
 桜の儚さと『君』をかけている、割と王道な作詞ですが、歌の説得力が半端ないです。
 中島みゆき=勇壮な歌というイメージが自分の中であったんですが、それを覆すしっとりとした歌唱。声の抜き方と伸ばし方のバランスが絶妙すぎる。大ベテラン様に今更こんなこと言うなっちゅう話ですが。
 桜が咲いていられる時間を表現しているかのように、2分半以下と短い時間で終わってしまうのもいい。

02.ただ・愛のためにだけ ★★★★★
 雰囲気を保ったまま、前曲から連続して流れ込む。
「ただ愛のためにだけ 生きてると言おう」の連呼が非常に効果的。ありふれたメッセージですし、くどいくらい連呼しているんですけど、もうこの歌で言われれば納得せざるを得ない。シンプルな言葉ほど、ハマれば強烈なのです。
 ここまでの2曲がウォーミングアップみたいなものでしょうが、もうこれだけでお腹一杯になれるくらい。

03.宙船(そらふね) ★★★★
 TOKIOに提供した曲のセルフカバーで、ストリングスメインのアレンジになっています。
 女帝の歌もやりすぎなくらいパワフル。多少ピッチ狂おうが知ったこっちゃねぇ!ってくらいの勢い。
 曲自体は素晴らしいということに異論はありませんが、アレンジが個人的にちょっと微妙。間奏でちょくちょく入ってくるブラスセクションはいかがなものかと思うんですが。一気に歌謡曲っぽいイモっぽさが出ちゃった感が(歌謡曲が悪いって訳ではなく、この曲には合ってないのではという意味)バンドサウンド部分の演奏がやたら深みがあって上手い分、余計に残念。
 いっそのこと、フルオーケストラにした方が良かったと思います。歌は絶対負けないだろうし。

04.あのさよならにさよならを ★★★★★
 アタック弱めのドラムが印象的なスローバラード。
 タイトルは『オヤジ狩り狩り』くらいの分かり辛さですが、要は今をしっかり生きるために先をあれこれ不安がったりするなってことでしょう。
 この曲は歌や曲よりも、ドラムの上手さに心を持っていかれました。強弱の表現が上手すぎる。

05.Clavis-鍵- ★★★★★
 どこか懐かしいラテン調の曲。
 サビかと一瞬錯覚させるようなBメロ終わりのメロディに、勝手にしてやられました。「いつからサビだと錯覚していた?」的な。おまけにコード進行の変態ぶりに「なん・・だと・・」って感じ。
 歌も完璧に対応しており、更に声の揺らしが花を添える。クライマックスの情熱を抑えきれないような歌い方にも心を鷲掴みされました。

06.水 ★★★★
 キーボードをフィーチャーした透明感あるバラード。Bメロの輪唱のようなコーラスエフェクトが、水中にいるようで良いですね。
 ベタっちゃベタな作り方ですが、詞・歌・曲・アレンジ、バランス良くレベルが高いからいいのではないでしょうか。他に作りようもないですし。

07.あなたでなければ ★★
 フォークソング。字余り気味な歌といい未練タラタラな歌詞といい、一気にタイムスリップしたような感覚になりました。フォーク全盛期には僕生まれてないんですけどね。
 あとブラスパートがやっぱりちょっと鬱陶しい。アウトロのコーラスもいらんような。

08.五月の陽ざし ★★★★
 重かったのは相手のようで自分自身だったというスローバラード。延々と自問自答しているのが凄く良くハマってるかと。
 あとアレンジのシンプルさに相反して、何気にメロディが複雑で覚え辛い。これ歌うの難しいんじゃないでしょうか。

09.とろ ★★★★
 女帝のパブリックイメージを木端微塵にふっ飛ばしかねないコミカル曲。え、こんなのアリなの!?
 でもピコピコとエレクトロにしなかったり、歌詞自体は大きく崩していない辺りに最後の一線みたいなものを感じますね。
 テーマ自体は示唆に富んでいて面白いとは思いますが。「とろ」だから答えが出ないんですよね。

10.お月さまほしい ★★★★
 若干ラルクの『ALONE EN LA VIDA』っぽいイントロ、Aメロではピアノリフが鳴り続ける中あどけなさが残る歌い方、Bメロでは少し大人びた歌い方、そしてサビではロックバラード調に乗せて力を入れて歌う、月のように姿を変えていくバラード。早い話が、起承転結がハッキリした曲ってことですね。
 ピアノがサビ以降しばらく、8部を単音で鳴らしているだけなのがちょっと味気ないかな。ギターも歌も低音しっかりしてるから、パワーコードでもアリかなーと個人的には思うんですけど。

11.重き荷を負いて ★★★★★
「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し」という徳川家康の格言みたいな内容がテーマのロックバラード。
 本当に重りを背負いながら、それでも苦しさを表に出そうとしないような歌い方が本当に素晴らしい。
 濃ゆいものの、そこまで重たいアレンジでもないのも良いですね。結末に希望を見出している曲ですから。
 でもブラスはやっぱり(ry というか何故ジャズでもないのにこういうフレーズを。

12.ララバイSINGER ★★★★★
 セブンスコードを噛ませてるからか、何となくジャズ調に聴こえる3拍子曲。
 ラストは母性を出して締めるのは王道ですが、出し方がもう。どんだけ風格漂う母性なんだと。
 言葉のチョイスも年季が入ってますし、歌唱など言わずもがな。深き闇の眠りへと導いてくれる名曲。


●総評
 34thなんてワードを使ったのはサイト運営していて初めてでしょう。誰でも知っているであろう超大御所女性シンガーの、通算34枚目のオリジナルアルバム。代表曲はもちろん知っていましたが、アルバムをちゃんと聴いたのはこれが初めてです。相互リンクさせて頂いているproserさんからリクエストがあったので、手に取ってみました。
 もう、ちょっと聴いた瞬間、全身を電撃が駆け抜けました。こりゃ全曲感想にしなきゃならんなと即効で決断させたくらいです。
 歌唱力が高いなんてことは当たり前で、そこから更に声色や表情の豊富な付け方を披露。難解な比喩を用いず分かりやすい言葉選びながらも捻りのない詞にはならず、メロディも馴染みやすいものからちょっと変則的なものまで付け、歌ってしまう。『歌い手』ってこういうものなんだなーと。やたらブラス入れてくる編曲はちょっと個人的に首傾げたくなりましたが。
 確かにある意味『とろ』ですよ。築地市場最高ランク天然本マグロの希少価値的な意味で。これを聴かないのは損失です。1秒でも早く聴きましょう。テレビとかから流れてくる代表曲だけで満足してはなりません。






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